競馬は、サラブレッドと呼ばれる競走馬に騎乗し、1着を目指して競い合うレース競技です。100年以上の歴史があり、その伝統から古くから続く格式高いレースも少なくありません。
ところで、モーターレースなどでは、世界中の格式高いレースを「世界三大レース」としてまとめて紹介することがありますが、競馬にも「世界三大レース」と呼ばれるものはあるのでしょうか?
本記事では、競馬における世界三大レースとは何かを解説するとともに、競馬に触れていると耳にする「三冠レース」との違いについてもわかりやすく説明していきます。三大レースや三冠レースについて興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。
競馬の世界三大レースについて
競馬界で格式高い「世界三大レース」の概要を紹介します。
世界にある三冠レースの種類
海外で行われている三冠レースについて、その特徴や種類を解説します。
日本にある三冠レースの種類
日本で開催されている三冠レースと、そのレースの意味について説明します。
競馬における世界三大レースとは?
「世界三大レース」とは、世界中のレースの中でも、特に格式が高く、伝統と名声を誇る3つのレースをまとめた総称です。モーターレースには「世界三大レース」が存在するように、競馬にもこの称号にふさわしいレースがあります。
本章では、競馬における「世界三大レース」とされるレースについて、その概要を解説します。
世界三大レースにおける厳密な定義は存在していない
実は、競馬において「世界三大レース」という正式な呼称は使用されていません。競馬は長い歴史を持ち、日本のみならず世界中で愛される競技であるため、こうした呼び名が存在してもおかしくはありませんが、公式に確認されたものはありません。
しかし、世界の有名レースを三つにまとめた「欧州三大レース」という名称は存在します。これは、イギリスダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス、凱旋門賞の3つを指す総称です。
- イギリスダービーは、3歳馬のみが出走できるレースです。
- キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスと凱旋門賞は、3歳以上であれば古馬も出走可能です。
また、同じ年にこの3レース全てを制した馬には「欧州三冠馬」という称号が与えられ、歴史に名を刻むことになります。
競馬では【三冠レース】と呼ぶのが一般的
競馬において、公式には「世界三大レース」という名称は使用されていません。
その代わりによく使われるのが「三冠レース」という言葉です。三冠レースは、他の競技での「三大レース」と同様に、格式高いレースを三つまとめた総称を指します。競馬においては、「三大レース」ではなく「三冠レース」として認識されていると考えていただくとわかりやすいでしょう。
なお、三冠レースは世界各国に存在し、国によって異なるレースが指定されています。中には世界的に有名な三冠レースもあれば、国内のみで認知されているものもあり、レースの知名度は地域や歴史によって異なります。
世界競馬における三冠レース
競馬はイギリス発祥の競技で、ヨーロッパを中心に広まり、その後、北米のアメリカや日本などにも伝わりました。本章では、世界の競馬における三冠レースと、指定されたすべてのレースを制した「三冠馬」について解説します。
イギリスの三冠レース
競馬発祥の国であるイギリスにおける三冠レースは、以下の3つのレースです:
- 2000ギニーステークス
- ダービーステークス
- セントレジャーステークス
これらのレースは、日本で開催される皐月賞、日本ダービー、菊花賞のモデルとなっており、日本競馬の原型とも言えるレースです。
2024年時点で、イギリスの三冠レースを全て制した馬は15頭います。ただし、最後に三冠を達成したのは1970年のニジンスキーで、それ以来50年以上も三冠馬は現れていません。
三冠を達成すること自体が非常に難しい要因の一つとして、セントレジャーステークスが約2,921mの長距離レースであることが挙げられます。このレースでは、強い馬でも体力が求められ、体力不足で出走しないケースも増えてきました。そのため、イギリスでは長年、三冠馬が現れていないのです。
アメリカの三冠レース
アメリカにおける三冠レースは、以下の3つのレースです:
- ケンタッキーダービー
- プリークネスステークス
- ベルモントステークス
アメリカの三冠レースはすべてダートで開催され、ダート最強馬を決める一戦となっています。また、これらのレースの間隔が非常に短いことでも有名です。例えば、一冠目のケンタッキーダービーは5月上旬に行われ、最後の一冠であるベルモントステークスは6月中旬に開催されます。このため、レース間の厳しい間隔を乗り越え、前走の反動をなくして走り切るだけのスタミナと精神力が求められます。
過去にアメリカ三冠レースを全て制した馬は12頭いますが、その中でもセクレタリアト(1977年生まれ)は、三冠全てをレコードタイムで制し、50年経った現在でもその記録は破られていません。セクレタリアトはその圧倒的な強さから、アメリカ競馬史上最強の馬と称されています。
フランスの三冠レース
フランスも競馬大国であり、世界最高峰のレースに指定されている凱旋門賞が開催される国です。フランスにおける三冠レースは、以下の3つのレースです:
- プール・デッセ・プーラン
- ジョッケクルブ賞
- パリ大賞典
欧州生まれの競走馬は、他の国で開催される三冠レースにも出走することができます。そのため、フランス生まれの馬がイギリスの三冠レースに挑戦したり、フランス国内で開催される格式の高い凱旋門賞を選択するケースが増えてきました。このような背景から、イギリスの三冠レースほどの価値はフランスの三冠レースにはなくなってきていると言えます。
なお、フランス競馬史上でフランス三冠レースを全て制した馬はZutとPerthがいます。特に、Perthが三冠を達成したのは1899年であり、それ以降、フランス三冠馬は現れていません。
【日本競馬】の三冠レースの特徴や歴代勝ち馬について
日本競馬においても、三冠レースは存在しています。本章では、日本の三冠レースの特徴や歴代の勝ち馬について解説していきます。
クラシック三冠
日本競馬の三冠レースの中で最も有名なのがクラシック三冠です。クラシック三冠は3歳馬しか出走できず、生涯に1度しか挑戦するチャンスがありません。日本におけるクラシック三冠は以下の3つのレースです:
- 皐月賞
- 日本ダービー
- 菊花賞
いずれのレースも中〜長距離コースで行われ、総合力が試されます。特に、最後の一冠である菊花賞は芝3,000mの長距離レースで、これまでに実績を積んできた馬でもスタミナに自信がない場合は出走を避け、翌週に開催される**天皇賞(秋)**に向かうケースも多いです。
クラシック三冠をすべて制した馬には、三冠馬の称号が与えられます。
2023年までにクラシック三冠を制した馬は8頭います。代表的な馬には、「皇帝」と称されたシンボリルドルフ、競馬に馴染みのない人にもその名が知られているディープインパクト、そして「世紀の暴れん坊」として有名なオルフェーヴルがいます。
牝馬三冠
クラシック三冠と同じ時期に行われる、牝馬だけが出走できる3つのレースは牝馬三冠と呼ばれています。牝馬三冠に指定されているレースは、以下の3つです:
- 桜花賞
- オークス
- 秋華賞
桜花賞とオークスは、イギリスで開催されている1000ギニーステークスとオークスステークスをモデルにしていますが、秋華賞は日本オリジナルの競走です。
牝馬三冠のレースは、牡馬が出走するクラシック三冠と比較すると、桜花賞(1,600m)、オークス(2,400m)、秋華賞(2,000m)といったマイルから中距離のレースであり、マイルや中距離を得意とする牝馬向けの競走となっています。
2023年時点で、牝馬三冠をすべて制した馬は7頭います。中でも、2020年の牝馬三冠馬であるデアリングタクトは、デビューから無敗で秋華賞を制し、競馬史上唯一、無敗の三冠牝馬としてその名を歴史に刻んでいます。
3歳ダート三冠
3歳ダート三冠とは、2024年から地方競馬で新たに導入された競馬路線で、以下の3つの競走が三冠レースとして指定されています:
- 羽田盃
- 東京ダービー
- ジャパンダートクラシック
地方競馬は、芝を主体とした中央競馬に比べると知名度や売上で劣ることがあり、そのため新たに三冠競走を設けることで改革を進めています。
改革に伴い、従来から行われていた羽田盃と東京ダービーは、Jpn1競走に格上げされました。Jpn1とは、地方競馬における最高のレースグレードを示す称号です。
また、ジャパンダートクラシックは、前年まで「ジャパンダートダービー」という名称で行われていましたが、名称変更により、三冠レースとしての印象が強化されました。
2024年度から新たに始まるため、歴代の勝ち馬はまだ存在していませんが、今後どのような名勝負が繰り広げられるか、注目されています。
JRA秋古馬三冠
JRA秋古馬三冠とは、11月から12月に開催される中距離競走を総称したもので、以下の3競走が該当します:
- 天皇賞(秋)
- ジャパンカップ
- 有馬記念
これらのレースは、いずれも2か月以内に開催されるため、レース間隔が非常に短いのが特徴です。
- 天皇賞(秋) では、有力な3歳馬の参戦が見られ、
- ジャパンカップ では、世界の強豪と戦う舞台となり、
- 有馬記念 は、中山競馬場の適性が求められやすく、難易度が高いレースです。
したがって、これらのレースをすべて勝ち抜くのは非常に難しいとされています。
JRA秋古馬三冠を同一年内に制した馬は、2000年のテイエムオペラオーと2004年のゼンノロブロイの2頭です。特に2000年以降、JRA秋古馬三冠を達成した馬には特別褒賞金が贈られています。内国産馬には2億円、外国産馬には1億円が交付されます。
JRA春古馬三冠
JRA春古馬三冠とは、4月から6月にかけて行われる3つの古馬中〜長距離競走をまとめた呼称で、以下の3つのレースが該当します:
- 大阪杯
- 天皇賞(春)
- 宝塚記念
JRA春古馬三冠は2017年に創設され、JRA秋古馬三冠と比較すると歴史は比較的浅いです。
JRA秋古馬三冠との大きな違いは、天皇賞(春) が芝3,200mという長距離コースで行われる点です。このため、中距離で実績を残した馬でも長距離適性がなければ勝ちきるのが難しいため、達成難易度はJRA秋古馬三冠よりも高いとされています。
歴史が浅いことや長距離レースが含まれているため、2023年時点ではJRA春古馬三冠を成し遂げた馬はいません。
さらに、JRA秋古馬三冠と同じく、同一年内に該当レースを全て勝利した馬には特別褒賞金が贈られ、内国産馬には2億円、外国産馬には1億円が交付されます。
まとめ:競馬における世界三大レースとは何か?
競馬において「世界三大レース」という言葉は公式には使用されていませんが、代わりに「三冠レース」という呼称が広く使われています。三冠レースは、いずれも格式の高い競走であり、そのため世界三大レースとほぼ同じ意味合いで捉えられることが多いです。
三冠レースは日本国内だけでなく、世界中で数多く存在しており、その数は非常に多いです。各国で定められた三冠レースは、競馬界の中で非常に重要な位置を占めています。
この記事では、特にメジャーな三冠レースをピックアップして紹介しましたが、紹介しきれなかったレースもたくさんあります。競馬に興味がある方や、さらに詳しい情報を知りたい方は、他の三冠レースについて調べてみると新たな発見があるかもしれません。